「元人事部長が語るハラスメント」~笑いを取るつもり・・・の顛末~
今回のコラムは「ハラスメント」を採り上げたいと思います。
ハラスメント加害者になってしまう人の特徴は「「知識がなく自分を客観視できない人たち」なのですが、実はその人たちを恐ろしい顛末が待っています。
そのことを研修講師として、そして元人事部長としての立場で解説したいと思います。
ハラスメント研修もやってます
私が担当している研修のテーマは、管理職やリーダー職研修など大半がマネジメント系です。
マネジメント全般は勿論、目標管理、評価、人材育成、労務管理など個別テーマの講演などもやらせて頂いています。
加えて、マネジメント層に限らず組織全般にかかわるテーマとして、コンプライアンスやハラスメントに関する研修や講演もご依頼頂くことがあります。
今回は、そのハラスメントを少し採り上げてお話ししたいと思います。
ハラスメントの研修では、概ね以下のの順序でお話をさせて頂いております。
- ハラスメントとは何か
- ハラスメントの何が問題か
- なぜハラスメントが起きるのか
- どうすればハラスメントを防止できるのか
この中で特に強調してお話しすることの一つが「自分の中の常識は世間(相手)の常識ではない(と知ること)」です。
ハラスメント行為に及んでしまう人の大半は、自分の常識と世間の常識とが重なり合っていません。
パワハラについて
例えばパワハラ(パワーハラスメント)では、「これくらいの指導は当たり前。厳しくもなんともない」という発想は、あくまで自分基準です。
基準やルールを知った上で、常に自分の指導行為を客観的視点で見つめ、自己評価をしなければならないのですが、これが出来ない人が多いのです。
厚生労働省は近年、パワハラの定義を以下の通りとしました。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます
そして、さらにパワハラに該当する行為類型を6つにまとめました。
- 肉体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
このように、ある程度具体化したことで、やってはいけないことが明確になりました。これはかなり分かりやすくなったと思います。
なお私見ですが、できれば2の精神的な攻撃に
「細かいところまで指摘しないと気が済まない」
「部下に指導する際は必ず過去を蒸し返したりする」
「言い方がしつこく、相手に反論の余地を与えない」
などもパワハラの要素に加えてもらえれば、なお良かったのではないかと思います。
このような行為は一度くらいなら許容できても、何度も同じことがあると真綿で首を締められるように徐々に心の負担が増すように思います。
セクハラについて
次はセクハラ(セクシュアルハラスメント)です。
セクハラに関しては、厚生労働省ではこのように定義しています。
職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること
そして、この性的な言動の例として以下を挙げています。
①性的な内容の発言
性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すこと等
②性的な行動
性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為など
さらにセクハラでは、「対価型」と「環境型」という二つの類型を定めています。
「対価型」とは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給などのの不利益を受けること。
「環境型」とは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の支障が生じること。
このように定義されていますが、私の感想としては、パワハラの定義と比べてセクハラのこれは具体性にやや乏しいという印象を持っています。
この具体性の乏しさが、理解や解釈に差を生むということになっているのではないか?という心配もあります。
研修でのFAQ
ハラスメント(特にセクハラ)の研修や講演を行うと、かなりの確率でこのような質問・指摘を受けます。
「セクハラは相手との関係性で決まるのではないか?」
この意味合いは、
「行為者(例:職場で上長のAさん)と被行為者(例:同じ職場のBさん)との間に良好な人間関係が出来ているなら、Aさんの行為が一般的にはセクハラ言動とされるものであったとしても、それはセクハラには当たらないのではないか?」
つまり、相手が不快に思わないのならセクハラは成立しないのではないかという意見です。
このような発言をする方は、こうも言います。
「さすがの私も人間関係が出来ていない相手には配慮するよ」
あるいは
「私も相手を見て発言しているのだよ」
こうなると、セクハラは良くないと感じながらも、自身のセクハラを正当化しているとしか思えません。
環境型セクハラを理解する
前述の「環境型セクハラ」の定義を再度掲げます。
労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の支障が生じること。
これをよく読むと、先ほどのご意見の方は、この環境型セクハラを狭い範囲でしか理解されていないことが分かります、
先ほどの例で申し上げると、BさんがAさんによる行為(性的言動)を自身へのセクハラと認識していないのなら、この場合は、Bさんに対しては問題ないかもしれません。
しかし、Aさんの行為を見ていた同じ職場のCさんは、Aさんの行為を不快な性的言動として捉え、Aさんがいる職場に出勤できなくなった場合はどうでしょうか。
この場合はCさんに対し環境型セクハラが成立すると考えられます。
直接的でなくともセクハラは成立するのです。
Aさんはこのことを理解できていないと思われます。
そこまでのリスクを背負ってまですることですか?
前記の「セクハラとは相手との関係性で決まるのではないか」という質問があった場合、私は前記の環境型セクハラの説明をしてご理解を頂くようにしています。
概ねこの回答で理解して下るのですが、全ての方がそういう訳ではありません。
相対的には、年齢が高い層ほど、この理解力が低下しているようにも思えます。
理解できない方はこういう反論もしてきます。
「性的でも冗談は冗談。単なるコミュニケーションの一環だ」
「こんなことも言えないのなら、話ができなくなる」
こうなるともう、子どもの言い訳レベルですが、問題はその言動が他人を傷つけ、その人の人生を変えてしまうほどの影響があるということに気付いていないことが深刻なのです。
このような場面では「一般論」という前提で、コカ・コーラで人事部長を務めた経験から以下のように話すことにしています。
- 今では法令および就業規則でダメとされているハラスメント行為ですから、これに違反すると何らかの罰を受けることになります。
- 人事部の立場で申し上げると、ハラスメントは就業規則における服務規律に違反する行為ですので、その内容如何では懲戒処分を受ける可能性もあります。
- その行為が悪質で影響度が大きいと判断されたら、懲戒解雇となることもありえます。
- そうなると、収入を失い、社会的地位を失い、家族まで失うことになるかもしれません。
- さらに損害賠償請求を受ける可能性まで生じます。
そして最後に・・・
そこまでのリスクを背負ってまでやることですか?
と聞くようにしています。
自分の基準では冗談。
自分の基準ではコミュニケーションの一貫。
その基準の危うさが相手を傷つけ、自分の人生をも狂わせるのです。
それは昔からダメだっただけ
昔なら許容されたことが今ではそうではなくなったという事例は枚挙に暇がありません。
「昔は気軽に(性的な)冗談を言い合えたのに今はそれが許されない。窮屈な世の中になった」
なんてことを言う人は未だに多いです。(特に昭和の中期以前に生まれた人に多いように感じてます)
しかし、その冗談は昔からダメだったのです。
この時代になって、ようやく「それはダメだ」という認識がマジョリティとなったに過ぎないのだと思います。
性的な発言をする人は、相手に対して嫌がらせをしようということよりも、冗談を言って笑わせたいという気持ちが強いように思います。
しかし、それが笑いになることはありません。ここに気付くべきです。
笑いを取るはずが、むしろ職場の空気を悪化させ、最悪の場合は相手の人生だけではなく、自分の人生をも狂わせる要因になるのです。
価値観の変化の流れについていけず窮屈に思うこともあるかもしれませんが、本来ダメなことはやはりダメ。
何もかも失ってしまう前に、冷静に自分を客観視して頂きたいと思います。
(おわり)
0コメント