「コカ・コーラでの元上司のマネジメントと育成の手法」~この人に出会わなかったら今の自分は無かった~

今回のコラムは、僕が尊敬してやまないコカ・コーラでの元上司・Yさんのマネジメントをテーマにしています。

 あの頃、Yさんの部下にならなかったら今の僕は無かったと思っています。


Yさんについて

Yさんは1947年2月のお生まれなので、もうすぐ77歳になられます。

今は引退されて、九州に住んでおられます。 もう数年間はお目にかかっていませんが、しっかりお元気のようです。 

 物流企画課に異動した時、僕は27歳で、Yさんは44歳だったでしょうか。 

 ご本人曰く、当時は本社でいちばん若い課長だったようです。 

 とにかくすごい人で、知識、構想力、実行力、行動力、調整力、人間力のどれをとっても超が付く一流のビジネスパーソンでした。 

 物流企画課に異動した頃、「会社を陰で動かしているのはYさんだ」という噂を聞いたことがありますが、それは大袈裟な話では無かったと思います。

とにかく誰もが凄い人と認める人でしたが、凄すぎるがゆえに敵も多かったと思います(笑) 

ただし、その「敵」は、Yさんに対するジェラシーによるものであったことは間違いありませんが。



社長になったYさん

Yさんは、2010年に西日本エリアを担当するコカ・コーラ事業会社「コカ・コーラウエスト株式会社」(僕はこの会社で人事部長を務めました)の社長に就任され、2017年には「コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社」の初代社長に就任されました。

 「コカ・コーライースト(東日本)」と「コカ・コーラウエスト(西日本)」とが2017年に統合し「コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社」が発足したわけですが、これだけの大事業の主導の中心にいたのは紛れもなくYさんです。

 これほどの難しい事業をいとも簡単にやり遂げたのは「凄い」以外に形容しようがありません。 

 


Yさんの下で

前回のブログにも書きましたが、僕は物流企画課で4年間、Yさんの部下として働きました。 

 即戦力の戦略スタッフが必要ならば、本社にはいくらでも候補がいたはずなのに、右も左も分からない僕(とTさん)を部下に選んだことは大博打であったに違いありません。

「ダメだったらいつでも現場に戻ってもらう」という脅迫めいたことも言われましたが(笑)、優しさに裏打ちされた厳しさで僕らを育てて下さいました。 

 正直言うと、怒鳴られたこともあるし、口をきいてもらえないなどパワハラのようなこともありましたが(笑)、この人についていけば間違いないとの確信もあり「絶対に見放されない。絶対についていく。絶対に認めさせる」との強い思いで過ごした4年間でした。



何をどのように学んだか

Yさんから最初に言われたのは以下のようなことでした。 

  • 物流システムの再構築の目的は3つある。 ① 物流コストを低減させること ② 物流のサービス水準を高めること ③ 配達担当者の負荷を下げることだ。
  • しかし、これらの課題はトレードオフの関係にある。これらを同時に解決することは簡単ではない。 
  • したがって、この仕事を進めていくためには「知識武装」し「理論武装」することが必要だ。 
  • 一所懸命に勉強して、豊富な知識を得て、それを論理的に組み立てるスキルを身に付けろ。 

 まず、こうやってこの仕事に取り組む目的と僕らの役割・使命を明確にしてくれました。のちにこの時のビジョンや目標が明確であったことやミッションを明確にしてくれたことがモチベーションに大きく影響したことを悟りました。


そして、Yさんは徹底した現場主義者でもありました。 

「机上論は許さない」

「必ず現地へ行って、現場を見て、現物に触れて検証してこい」 

 この仕事に臨むにおいての思考と行動の指針も明確に示してくれました。

その上で、 

「お前らに丁寧に教えながら仕事を進める時間的余裕はないので、半年の時間をやる。社内外の色んなモノや仕組みを見て学べ。そしてその間に社内外にたくさんの人脈を作れ」

ということで、手取り足取り教えてくれるわけではなかったですが、Yさんの仕事の進め方を傍で見て、Yさんの資料作りを手伝い、Yさんの(会議などでの)発言を聞くなど、Yさんの立ち居振舞いを見てたくさんのことを学んでいきました。

とにかく必死で仕事した数年間でしたが、この間に生産、設備、機械、建築、IT,財務、法務など様々なことを学ぶことができましたし、こういった仕事を通じて、社内外に人脈ができたことも大きな財産となりました。



究極のOJTだった

物流システムの再構築のためには、多額の予算が必要でしたので、社内の至る所からこのプロジェクトを疑問視する声がありました

 時には「妄想だ」とか「金の使い方を間違っている」などの厳しい言葉を発することを言う人もいましたが、Yさんは怯んだり感情的に言い争ったりすることはありませんでした。

このシステムを導入することで、ご注文からお届けまでのリードタイムが短くなること。これは営業支援につながること。

トラックへの積み込みを自動化するので、配達担当者の肉体的負荷を激減させることが可能になること。

全社的に物流の効率化が進み、配送トラック1台当たりの生産性向上になるのでコスト削減につながる。よって投じた費用は早期に回収でき、その後は利益を生み出す源泉になる。

このように常に冷静に、その必要性を丁寧かつ論理的に説き続けました

 僕と同僚のTさんの役割は、これらのことを様々なシミュレーション、そしてテストや検証を徹底して行い実証を重ねていくことでした。

そして、経営会議で何度もプレゼンテーションを行い、経営トップはじめ取締役の皆さんの理解を得て、最終的に実行予算を勝ち取ることが出来ました。

この仕事を通して、着眼・構想・設計・実証・突破という流れを、身をもって体験することが出来たことはビジネスパーソンとして一生の宝だったと思います

 あの5年間は、二度と経験できないであろう究極のOJTだったと思います。



Yさん異動の衝撃

このように物流システムの再構築プロジェクトが順調に進み始めた4年目の年末、僕と同僚Tさんに衝撃が走りました。

Yさんは「京都工場ロジスティクスセンター」の建設という、この物流システム再構築プロジェクトの集大成の仕事に着手する直前に物流企画課を卒業し、マーケティング部長へ栄転されることになったのです。

当然、Yさんの後任の課長が異動してこられたのですが、これまで物流に関わったことは無かった方でした。(ただ、この後任課長のHさんは素晴らしい人格の方で、僕らの仕事を影日向に支えてくださいました)

この後の仕事は僕とTさんとで受け継ぐことになるので、あの時は恐ろしいほどの不安感に見舞われました。 「会社の上層部は何を考えているのか?」と思ったりもしましたが、上司の栄転を喜ばずにはいられません。

しかし、今考えれば、「もうお前たちだけでも大丈夫だ。任せたぞ」ということだったのだろうと思います。

そして、ご自身はマーケティング部長として側面からバックアップしてやろうという思いだったのだろうと思います。



大いに成長できた時間だった

 そして、この頃には物流ロジスティクス戦略を応援してくれる重役も増えてきました。

最初の頃は「金のかかる投資へのネガティブ感」があった人たちも、日本ロジスティクス大賞を受賞し業界の注目を浴びるシステムを自分たちの手柄のように感じていたようです(笑)

一方、僕らの仕事が注目を浴びることが面白くない人たちも少なからずいて(特に生産部門の人たち)、Yさんがいなくなったことを良いことに細かい嫌がらせも受けたりしましたが、その頃にはYさんから教わった突破力が僕らにも備わっていて、何とか進めていくことが出来ました。

その頃、僕はまだ主任~係長職くらいの役職だったと思いますが、Yさんが異動されたこの頃が最も成長できたような気がします。

Yさんは自分が去ることで、僕らがさらに成長できることを見込んでいたのでしょう。 最後の最後まで、計算し尽くしたマネジメントだったと思います。


余談ですが、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社の社長になったYさんは、経済紙はじめ数々のインタビューを受けたようですが、その中で「自身のビジネス人生において最も印象に残った仕事」について聞かれたとき、ご自身が物流企画課長であったころだと話したそうです。

そのことを聞いた時、Yさんを抱きしめてあげたくなりました(笑)



Yさんの人材育成

振り返れば、必死で勉強して、深夜あるいは休日も仕事をした5年間でした。

Yさんから一度も残業や休日出勤を命じられたことはありませんが、時間の長さや休日に仕事をすることが苦にならなかったのは、成長できている実感があったからだと思います。(今はこんな考え方は通用しないでしょうが、趣味に没頭するようなものでした)


では、なぜそこまで自分を掻き立てたのかを考えてみると、このようなことが言えると思います。

  • 仕事の意味や目的が明確だったこと。
  • 自分のミッションが具体的に理解できたこと。
  • 少しずつでも、小さなことでも、やったことを評価して下さったこと。
  • そして、大きな達成感の連続だったこと。

 いずれも、Yさんの緻密に計算し尽くされた動機づけ戦略に乗せられていたことは間違いないと思っています。 


 今、私は「モチベーションを育てませんか?」をキーメッセージとした人材育成サービスのお仕事をさせて頂いていますが、Yさんのマネジメントを思い出しては大いに参考にさせて頂いています。


もう後期高齢者に到達したYさんですが、今でも福岡で元気に過ごしておられるようです。

久しぶりにお目にかかって、あの時の想い出話でもしながら、時には怠けそうになる僕にカツを入れていただきたいと思っています(笑) 



 今回も最後までありがとうございました。

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