「労働組合役員として」(私の履歴書ep5)

 エピソード5となる今回は、管理職としての第一歩を踏み出した秘書室での出来事を紹介しようと思ったのですが、実は大事なことを忘れていました。

本社(物流企画課)へ異動になった後、すぐに労働組合の役員を務めることになったのですが、気がつけば6年間もお世話になっておりました。 

コカ・コーラでは仕事で多くの経験をさせて頂きましたが、労働組合でも多くを学ぶ機会に恵まれ、僕の今の仕事をするにあたって、この時の経験が大きく生きています。

というわけで、労働組合の役員として活動した期間のことを振り返ってご紹介したいと思います。



使用者の側に立つ

労働組合の役員としての活動の話の前に、管理職になった直後のことをお話ししたいと思います。

管理職アセスメントに合格した時、以前の上司(Yさん)が開いてくれたお祝いの会の時に言われた、「吉川も使用者側の一員になったね」という言葉が印象的でした。

そうなのです。管理職は使用者の一員なのです。 

管理職と言っても給料をもらって働く勤労者であることに間違いはありませんが、会社の中の立場としては、

労働者・・・業務における“指示や命令を受けて働く”立場 

から

使用者・・・業務において“指示や命令を出して働かせる”立場

に立場が移るのです。

管理職も給料をもらって働く勤労者ですが、指示や命令を出して働かせる立場なので使用者の一員となるわけです。この労使の違いとはとても大きな違いなのです。



労使は対等の立場

一方、忘れてはならないことがあります。

労働基準法(同法第2条)に定められている「労使対等の原則」のことです。

この「労使対等の原則」とは、「労働条件は労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものである。」 というもので、使用者と労働者とは、立場は違えども労働者と使用者とは対等の関係にあると法律において定めたものです。

ここで「労使」という言葉が出てきましたが、この場合の「労」は労働者、「使」は使用者を指します。 


さて、管理職になった時、皆さんにお祝いの宴を開いていただき、そこで「吉川も使用者側の一員になったね」という言葉を頂いたのですが、同時に「決して人間として偉くなったわけではないので、そこを勘違いするな」ということも言われました。

「部下は将棋の駒ではない。したがって指示・命令できる立場であっても、好きに使っていいものではない」

「部下にはそれぞれ個性が異なる。その個性をよく観察した上で、指示や命令を変えないといけない」

「今後も年上の部下を持つこともあるだろうが、“長幼の序”つまり年長者と年少者の間での守るべき礼節を忘れてはいかん」 このようなことをたくさん教えて頂いた、お祝いの宴でした(笑)



労働三権と労働組合

ここで、労働三権について述べたいと思いまう。

労働三権とは「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の三つを指し、「日本国憲法」で保障されている、働く人を守るための権利です。

労使は対等とは言いながらも、使用者が優越的地位を利用することはあるだろうという想定で定められたものだと思います。

このような時に労働者が、自分たちの立場を守り、その権利を行使することを認めたのが労働三権であり、労働組合は労働三権によって認められた労働者の団体です。

努めていた会社は、労使間でユニオンショップ協定を結んでおりましたので、新入社員は入社と同時に労働組合員となります。

ただ、正直なところ労働組合とは胡散臭い存在だと思っていたので、労働組合員になることも良しと思わなかったし、支部オルグ(職場単位で行われる労働組合の説明会や討議会)に出るのは極力避けてたし、何より労働組合費を徴収されることが嫌でたまりませんでした

https://www.irasutoya.com/2016/05/blog-post_30.html




役員にスカウトされる

さて、2年間の営業所での配達の仕事を卒業し、本社(物流企画課)に異動になった僕ですが、その年の夏ごろに思いがけないお誘いを頂きました。

当時、同窓で同郷の先輩Oさんが労働組合の書記次長(専従)をしておられて、そのOさんから労働組合の役員になってみないかとのお誘いがありました。 

前述の通り、労働組合は胡散臭い存在だと思っていたので、最初は丁重にお断りしたのですが、何度も熱心に誘って下さるので最後はその熱意に負けてお受けすることとしました。

ただ、業務に支障があってはいけないと思い、内々に上司(課長のYさん)に相談したところ、「勉強になると思う。賛成するよ」と言ってくださいました。 これが決め手となり、役員になる(正確には役員に立候補する)こととしました。

なお、この時、もし課長が「仕事が忙しい中で何を言ってんだ。労組の役員なんて許さん」などと言ったなら、それは不当労働行為に該当するところでした(笑)



中央委員会委員として

役員になると決意したとはいえ、僕の役職は「中央委員会委員(中央委員)」というもので、これは選挙を経て就任することになります。

なる!と言って自動的になれるものではないのです。

とはいえ、定員を超える立候補者がいるわけでもないので、選挙の実態は信任投票です。たしか、95%くらいの信任率で当選させて頂きました。 

当時の労働組合の組織とは、中央執行委員会>エリア委員会>支部>分会という組織構成だったと記憶しています。

そして、中央執行委員会のメンバーと、エリア委員会の役員とが中央委員会を構成し、ここで様々な情報共有や意見交換を行います。

僕が就任した中央委員会委員とは、執行部にもエリア委員会にも属しない立場で中央委員会に参加できる立場でした。

つまり、エリアや支部の組合員を代表していないので、自分の価値観で自由に意見を言える立場でした。



組合役員として学んだこと

ブログの冒頭に、「僕の今の仕事をするにあたって、この時の経験が大きく生きています。」と書いたのですが、これは偽らざる事実です。

労働協約によって会社の経営情報は常に開示されるので、会社全体の動きがよく分かりました。 

人事制度改定の際には、「労使対等の原則」に従い必ず事前に相談があり、これは中央委員会でしっかり確認する機会が与えられます。異議があれば会社に修正を要求することもあります。 このような機会で、制度というものが何を目的にどういうプロセスで構築されていくかをしっかり学ぶことが出来ました。

春闘や賞与交渉の際には、会社の損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)の中身を説明してもらえるので、これらの財務諸表の見方や分析の仕方も学びました。

中央委員会のメンバーによるオフ会(つまり飲み会)もよく開催されましたし、僕は役員の中では最年少グループに属していたこともあり、年配の役員さんには色々と可愛がっていただきました。

そして、労働組合は、業種や業態の垣根を超えて労働組合同士での交流が盛んです。Oさんに連れられて、その労組同士の会合や勉強会などにも参加させて頂きました。

胡散臭い存在と感じていたのは全くの僕の偏見と誤解で、月に一度開催される中央委員会や、ゴルフ、ボウリング、ハイキングなど休日に開催される労組のイベントに参加することが楽しくてなりませんでした。



もう時効なので

本来、こんな話は墓場まで持って行くべき人事情報なのですが、あれから20年以上経つのでもう時効だということで当時の内幕を暴露します(笑)

組合役員として5回目の選挙を控えた時、Oさんから「よっちゃん(僕のこと)、次は専従の副委員長として立候補しないか」との申し出を受けました。

当時、副委員長に就任していたOさんは、次の選挙で委員長に就任する予定で、その補佐役として僕を選び、声をかけてくれました。 

そしてOさんは自分のあとの委員長を僕に委ねたいと考えていたそうです。 Oさんのことは本当に尊敬していたし、Oさんにはとても可愛がっていただいたので、断るのも悪いな~と悩みに悩んでいました。

もちろん、物流企画課の仕事が佳境を迎えていたので、これも悩みの種でした。



Oさんの親心に感謝

しかし、その話から数日たったある日、Oさんが「よっちゃん、あの話は無かったことにして」と言ってきました。

戸惑う僕にOさんは、「念のため、人事部に吉川を引き抜くと言ったら、吉川はダメと言われた。本来、そんなことは不当労働行為になるので抗議しようとしたら、吉川は来年はアメリカに留学させると決まっているので、労組に出すわけにはいかない」と言われたと説明してくれました。

そこでOさんは、「労組専従よりアメリカへ行く方が吉川のためになる。ここはきっぱり諦めて別の人材を探す」と決めたそうで、それが「無かったことにしてほしい」との話になったわけです。

あの時、アメリカ留学の話がなければ、僕は委員長になっていたのかもしれませんね。そうなっていれば、また違った人生を歩んでいただろうと思います。

そして、僕はアメリカ留学と同時に僕の労働組合の役員としての任期も終了したのですが、いずれにしてもあの時のOさんの親心には本当に感謝しています。



組合役員として活動した5年間はホントに充実した時間でした。

その後、6年の時を経て、僕は人事部の部長代理に就任したので、 今度は会社側の立場で労働組合と向き合うことになったのですが、常に労使対等の原則を忘れず、互いにしっかりと議論し、必ず双方が納得できる結論に結び付けることが出来たのも、労働組合の役員を経験できたからこそです。


そして、あの時のあの経験は今の僕の活動に確実に生きています。 

 Oさん、組合に誘っていただき、本当にありがとうございました。 


 (つづく)

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